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生活リズムの計測から健康管理へ
~生体センサーを用いた健康管理法~

ー 目次 -

2. 慢性疾患管理に必要な理論

1)認知の歪み

2)目標設定

3)モニタリング

4)認知行動療法

5)行動医学

1)運動と身体運動

2)多職種チーム医療

1)ウエアラブル

2)ストレッチ効果

1)24時間チェック

2)デジタルヘルス

3)情報銀行

開発中

ー 目次 -

01. 健康経営とは

02. 中小企業における 

健康経営の認識

03. 健康経営の生産性への 

インパクト

04. 健康経営の顕彰制度

05. 健康関連とメンタル

06. パーソナルアプローチの 

問題点

07. 次世代型ヘルスケア 

健康経営の概念

08. ウエアラブル生体センサー 

によるメリット

09. 次世代型ヘルスケア 

システム

1. 「治す」から「予防」へ

1-1

​ 生活習慣病から心臓や脳血管に関わる大病にかかっても、多くは治療によって治すことができます。しかし、術後経過を長期的に見ると寿命は延びていないころがわかります。健康に長生きするためには病気を治すだけではなく、病気にならないようにすることが重要です。

​ よくご存じのように、動脈硬化など生活習慣病の根源は肥満です。日本では少ないようでもBMI35以上の高度肥満の人(最高220㎏の人も)は増えてきています。ここでの話のメインは肥満ですが、予防医学の最前線では筋肉に関心を寄せています。もちろん体重や腹囲などは重要ですが、その逆ともいえるサルコペニアあるいはフレイルと呼ばれる筋肉が減少する身体機能の低下に注目しています。長生きをするためには筋肉が必要です。最近のデイケア、デイサービスなどの施設ではお茶を飲んだり、お話をしたりする以外に筋肉トレーニングをします。最先端は筋力をいかにつけるかを重要視しています。

​ そして究極の予防は「元気に若くアンチエイジング」。抗加齢医学にも取り組んでいます。これらを通して受診者(患者さん)により健康になってもらうのが仕事です。薬も多少は扱いますが、肝心なのは運動や食事、禁煙など、患者さん自身の行動です。したがって行動医学を抜きにすると、なかなかいい結果が出ません。医療が薬を出したり手術をして終わりなら、行動医学は必要のないことです。保険指導の減量や禁煙、血糖値などで良い成果をあげるためには、自分で行動を変える行動変容がなければかなえられません。

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​行動医学

健康と疾病に関する心理社会科学的、行動科学的および医学生物学的知見と技術を集積統合し、病因の解明と疾病の予防、診断、治療およびリハビリテーションに応用していくことを目的とする学際的領域

2. 慢性疾患管理に必要な理論

1-2

​ 特定検診後の保険指導で、BMIやウエスト、肥満について、動脈硬化のリスクになるとか寿命が短くなるとか​説明されることがあります。

​ 便利な計算式などを使って「ウエスト85㎝以上はメタボです。ウエスト1㎝で脂肪1㎏に相当するので、3㎝減らすためには21,000キロカロリーをマイナス消費すれば必ず減量できます。3カ月で減らすとすると1日233キロカロリー。運動だけではせいぜい80キロカロリーなので、食事を減らしましょう。お茶碗1杯減らせば150キロカロリーを軽くクリアできるので、2杯食べている人は1杯にすればいいわけです」。「それも難しいならスパンを6カ月にすれば減量半分で済みます。1日40~70キロカロリー減となると、もっと簡単ですね」。「1日たったの200キロカロリーです。簡単ですよね

」。「やれば、3か月後、6カ月後にはこんなにスリムになっています。メタボ解消ですね」。

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1)認知の歪み

​ 〇カ月後、経過をみるために連絡を取ります。患者さんは「私、運動していますよ」「フィットネスクラブに通っています」と言います。特に高度肥満の人に「食べていますね」と聞くと、決まって「私、食べていないんです」と言います。食べていなければ痩せるはずですが「水を飲んでも太るんです」、最終的には「太る体質なんです」と言われるとそれ以上の説得はムリで、薬を飲んでもらうだけになります。患者さんが明らかに間違っているのですが、喧嘩を売っているわけではありません。患者さん自身も自分は食べていないと思い込んでいるのです。これは「認知の歪み」で、この思い込みは激しいものです。

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​ なぜ、歪みに至ったかの機序は、指導の「ごはん1杯に、ビールは1本に」「菓子を半分に」などの目標設定が患者さんに合っていないことに始まります。ムリヤリでも何日か試してみると減量はできるのですが、また、元に戻ってしまいます。目標設定を間違うと1~2週間がんばったとしても結局は元に戻ってしまい、「私はやっぱりできない」と思い込んでしまう。これもこの話のキーワード「自己効力感」です。自分はできないと思えばやる気はなくなります。「私はできない」を正当化して「私は太る体質」「水を飲んでも太る」という認知の歪みなっています。「こんなことはできない」と思い込んでいても、やってみれば案外簡単にできたりすることがあります。実際はやればどんな人でもやせるのですから、「私にはムリ、できない」と思い込んでいる認知の歪みを外す必要があります。肥満外来で減量に成功した患者さんに聞いてみると、初めは「運動をしてるのに」「太る体質だ」と言っていたのが、「あの頃は食べていました」と自分を理解できるように変わっています。

​ 思い込みを外す方法は

①考え方のくせに気づく(セルフモニタリング)

②新しい思考の探求(新しい考え方について共に検討する)

③日常生活におけるセルフモニタリング(新しい考えのメリットを考える)

④自己効力感の向上(できることを実感する)

​などのステップで認知の修正ができます。体重や歩数を記録するモニタリングで自分を客観視でき、いろいろなことに気づき、最終的にできると思う自己効力感でやる気になります。

​自己効力感(セルフエフィカラー)

自分が課題を克服したり、実行できるという期待や自信のことで、人が行動するかしないかを決定するための重要な要因の一つ。

2)目標設定

​ 行動医学的に一番大事なのは目標設定です。お正月に「今年は日記をつけよう」と書き始めても、大抵3日で終わっています。夏休みの宿題の計画も「7月中に宿題を終え、8月中はすべて遊べる」はずが、気が付けば8月31日も宿題をしていますね。計画を立てるときはテンションが上がっているので目標を高く設定しがちですが、ムリな目標を立てると失敗します。減量も同じです。

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​ 上の図の円は減量効果の大きさを表しています。「ごはんを1杯にして減量できるなら」と患者さんを説得して、やる気十分に始まりますが、3日くらいで「私やっぱりごはん好きやし」「減らしたくないわ」という人も少なくありません。「ビールを減らしましょう」という正論を述べる栄養士にもノウとは言えません。このままなお、続けるように言っても結局は三日坊主で終わります。本人は「やっぱり私はできない」そのうちに「私は食べていない」と思い始めます。理論的に考えて、我々は減量効果の大きい「ごはん1杯」をチョイスしたいところですが、本人は変えたくない、できないと思っていることだから、この目標では最初から続かないわけです。結果として減量には成功しません。

​ ごはんもビールもムリ、フィットネスクラブもムリなら、「昼休みの散歩はどうですか」と勧めます。10分くらいの散歩で大きな減量は望めませんが、こういう目標でも1カ月続けることができれば多少なりとも減量効果は出ます。

​ 効果があれば達成感が上がります。ほめることが一つでもあれば我々も嬉しく、患者さんもほめられてやる気を出します。1つできればいろんなことがやりたくなります。患者さん自ら「ごはんを半分にしようかな」と言い始めます。1カ月の時間を余分にかけても、患者本人がやりたくなるまで待つだけで、減量効果は大きく変わってくることがあります。

​ 初めから一番いい効果を出そうと我々があせると失敗します。責任はむしろ指導者側にあります。我々があせってしまうために、患者さんは三日坊主に終わってしまって、「自分はできない」と自己効力感を下げて「認知の歪み」をつくってしまいます。これを理解して特定保健指導をしなければなりません。正攻法で対処すると、お互いに気まずい思いをすることになります。

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3)モニタリング

​ 目標設定はこれで決まりました。が、ずっと続けていく必要があります。そこで行動医学第2弾がモニタリング(記録)です。

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​ 目標を決めても続かなければ意味がなく、ほめるにしても記録がなければできません。本人に歩数や体重などの記録をしてもらえれば、いろんなことが見えてくるのですが、ここにもポイントがあります。

​ たとえば、歩数は1日8,000歩、ごはんは半分にするとかの目標を決めて2週間後、記録を見ると3日分しかないとか、8,000歩と決めたのに6,000歩しか歩いていない場合、「3日しかできていない」「6,000歩しか歩いていないね」と言いたくなります。つい、できていないところを指摘したくなりますが、これが大きな問題です。

​ できていないことを言われたら誰でも自己効力感が下がります。「3日しか」を「3日も」と言い換えれば「3日でもイケてるのかな、次は4日にしようかな」と思ってくれます。「3日しかできなかった」と「3日もできた」は患者さんにとって全く異なる捉え方になります。

​ いかにポジティブにフィードバック支援をするか。使い方によってモニタリングは成功します。逆に患者さんの思いを水の泡にすることもできます。そこは我々が十分に気をつけなければならないところで、よく理解しておけば不要な言葉は出てきません。

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​ 実はモニタリングは古典的な手法で、20年以上前にNHKのテレビ番組『ためしてガッテン』で試みたものですが、肥満の人に①体重計をお持ち帰りの人と、②レシピの本のみをお持ち帰り人、の2郡に分かれてモニタリングの効果を検証してみました。当時、家庭用の体重計は珍しい時代だったので、体重計を持ち帰った人は毎日体重を量ります。毎日量っていると、体重の増減について何かが見えてきます。番組で「量るだけでダイエット」ができることが科学的に証明されたのです。

​ また、自分では食べていないと豪語していた、体重150㎏の作家が、あるとき、ご自分で食べたものをすべて記録してみたところ、ラーメンライスとかチャーハンとか炭水化物ばかりでした。さすがに食べ過ぎだと自覚して炭水化物を止め、1年くらいで正常体重に戻りました。ただ単に記録しただけでやせたことから「レコーディングダイエット」と名づけて商標登録されています。岡田斗司夫著書「いつまでもデブと思うなよ」で紹介されているダイエット法ですが、自分で記録するのは結構効果的です。

​ 行動医学的には、できそうだと思える減量しかやらせないことが大事で、やればほめてあげる、ただし減量の効果にはこだわらない。減っても減らなくても問題ありません。行動が続けば必ず減量はできますから、後から目標は徐々に上がっていきます。こういうことを意識して指導すると、意外に患者さんは乗ってくることがあります。

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4)認知行動療法

​ 心理学的には「行動療法」といいますが、自分でやれそうなこと、やりたいことを目標にやってもらうことは非常に大事です。この手法は30年ほど前からの定番です。

​ しかし、達成感がなければ人は続かないだろうし、逆に目標は適当でも自己効力感が大事。認知を変えた方がいいのではないか、自分でできると思えば勉強でも何でもやるだろうということで、「認知療法」が出てきました。1980年くらいです。認知を変えるような「あなたはできる」「すごいね」とほめるのは確かに効力はありましたが、目標設定を忘れると何をやっていいのかわからないだとうということで、2000年くらいからは両方を合わせた「認知行動療法」が主流になっています。

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​ ここで注意すべきことは、特定保健指導の場合、初回指導と継続指導をする人が異なる場合です。「この人は認知を変えよう」とか「行動を変えよう」、それとも「両方を」とか、自己効力感を上げるようにしていこうと思っているときに、別の人が「あなたできていませんね」と言えば、それで終わり。患者さんがやる気になったところでも水の泡になってしまいます。全員が理論的なところを共有しておかないと、一人で頑張っても効果はでません。

​ もう一つ大事なことは、実はステージ分類。やる気があるかないかです。特定保健指導の場合は特に「会社から言われたので」「肥満は関係ない」「禁煙の必要はない」という人も多いと思われます。減量したくない。タバコは止めたくない、運動もしたくない人は、認知行動療法でも残念ながらムリです。ここでは後で述べる動機づけ面接が有用です。

​ しかし、そんな人でも同い年の人が心筋梗塞を起こしたとか肺がんになったとかで、突然変わることもあります。やる気を起こした人に目標を自分で決定してもらうことが重要です。こうすればいいとか提案はせず、記録だけはしてもらいます。後はほめるだけです。そのうちに自分の考えを自らいってきます。

​ 普通の指導でも3割の人に成果があると思いますが、こういう手順を踏むと、少なくとも残りの3割も成功するという結果が出ています。後の残りの3~4割はなかなか手強いと思います。このようなことは、肥満外来をつくった20年くらい前は私も理解していませんでした。減量によってメタボがどれくらい良くなるのかを医学的に証明するために、まずは減量させねばと、栄養士や理学療法士やトレーナーなどに指導してもらったのですが、彼らの前では「言い繕う」という認知の歪みに気づいたのは1年以上もしてからでした。

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​ 上図のダブル・ブラインド・テストは認知の歪みを外すための①カウンセリングありと②なしの群に分けて6か月後、減量の経過を見たものです。それぞれに一応の成果はあるのですが、栄養士の手前、食事や運動にムリをした人はテスト期間が終われば元に戻ってしまいました。

​ 一方、認知行動のカウンセリングを受けた人は思い込みを外して、自らの意思で行動しているのでドロップアプトをする人は少なく、後のリバウンド率も少ない結果が出ました。行動を変えていくとうまくいき、長続きするということです。

​ダブル・ブラインド・テスト

治験の被験者群をA群B群に2分し、一方の群には被験薬を、もう一方には対照薬(プラセボなど)を投与して比較するもので、どちらのグループにどちらの薬を投与しているかを、医師、患者、スタッフも知らない状態で行う。

5)行動医学

​ 高度肥満の人などが対象の面接(インテーク)やカウンセリングは難しいです。

​インテーク

​相談者がどういう相談内容を抱えていて、その主訴の背景にある問題は何かということを明らかにするために、積極的、能動的に働きかけることを目的とした初対面の面接

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​ 栄養士やトレーナーにお願いしたいところですが、それぞれの仕事があります。今後は公認心理士がセルフ記録を見てほめたり、目標設定を随時見直していくと、うまく減量できるということも可能になってきます。心理士さんがいないとできないということではなく、こういうことをよく理解して、対応すれば効果が出るということをご理解頂きたいと思います。

​ ちなみに当院の肥満外来で使っている、目標設定や記録をしてもらう行動記録表の特徴は、言い訳をいっぱい書かせてくれるところです。

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​ 体重の増減に、クリスマス、誕生日、飲み会、送別会とかの理由を書く欄があります。増えていたら言い訳したいから書きます。それでOKなのです。食べたら増え、何もイベントがなく、運動をすれば体重は減っています。一目瞭然です。「私は食べていない」「運動してもやせない」という思い込みはこれで外れます。認知の歪みを修正するにはモニタリングが重要です。行動心理学的ヘルケアシステムの設定手順は下図の通りです。

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​ 認知行動療法は精神科や心療内科の先生がうつや摂食障害、過食、PTSDなどの患者さんに使われる治療法です。心のストレスは基本的には思い込みですが、認知の歪みがもう一つの原因になっています。これまで減量や糖尿病、肥満の治療にはあまり応用されていなかったのですが、我々も生活習慣病の保険指導のための研究会を作っています。

​ 患者さんの言いなりになっていれば目標達成はできないし、上から目線で指導するとスルーされます。要は本人のやる気をどう引き出すかの動機づけです。

​ 専門の面接手法があって、これを最もうまく使いこなしているのが塾の先生です。動機づけがうまく、子どもの自己効力感を上げています。学校の先生も父母もなかなかほめてくれませんが、ちょっと勉強して成績が上がると塾の先生はほめてくれます。

​ 教育界では定番の手法ですが、医療に持ち込むことはこれまで、あまりありませんでした。私も教育としては受けていませんので、気がついたのはドクターになってからでした。平成28年から医学教育にもやっと行動医学が入り、今の学生が現場を担う15年後くらいには医学の世界でも常識になっているでしょうが、少なくとも今の段階では自分で学ぶ必要があります。

​ 行動医学を理解しておくと効果がでるという話です。

類似用語まとめ

行動療法​  

行動を変化させることで、さまざまな問題ごとや困難、症状を改善していく方法

認知療法​  

誤った考えや歪んだ思考方法を訂正することで、感情や行動の変容を図る心理療法

認知行動療法​  

​認知(物の捉え方、考え方)と行動を変化させることで、問題ごとや困難、症状を改善していく方法

3. 生体センサーによる疾患管理

​ モニタリングの重要性は理解できても、記録するのはなかなか大変です。管理は複雑、お金もヒマもない、個人のスキルも要る、患者さんと1対1、週1、月1で会わないといけない、個別モニタリングの変化はわかりにくい、患者さんも病院へ行くのが面倒です。これらすべてを解決しようというのがモニタリング測定機器。IT、ICT、IoTといわれるコンピュータテクニックです。

​ 今の時代だからこそできるようになったもので、自宅からでも、病院からでも、どこからでもデータを入力でき、記録は自動的にグラフ化されます。

1-3

1)運動と身体活動

​ 「運動をしなさい」と言われてフィットネスクラブへ行く人はそう多くはいません。週3回行けば健康的ですが時間もお金もかかります。「運動」は耳にタコができています。患者さんも食傷気味なので運動という言葉をあまり使わないようにしています。肥満ではない人がみんなフィットネスクラブに通っているかといえば、そんなことはありません。フィットネスクラブに通っている人は人口の約3%。肥満でない人はもっといます。フィットネスクラブに行かない人でも肥満になりません。肥満とそうでない人はどこが違うのでしょうか。

​ 1日の生活状況を見ると「座位の時間」に違いがあることがわかりました。

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​ 座っているのは超不健康です。運動はしなくても選択、買い物、掃除の家事でOK。運動しなくても座っていなければいいのです。フィジカルアクティビティ(身体活動)で十分に効果が出ることがわかってきたのです。少なくとも「運動」を強調しなくてもよく、「歩いて買い物をする」「階段を使う」で十分効果は出ます。

​ しかし、動いている時間をモニタリングするのは至難です。記録できません。そこで生体センサーです。歩数計やスマホで記録する人も多いでしょうが、センサーを腰につけるのを忘れたり、スマホはずっとからだにつけてはいません。

2)多職種チーム医療

​ 今、最も使われているのは腕時計型センサーです。ずっと腕につけてもらえれば睡眠時間や睡眠深度もわかり、生活習慣をかなり細かく評価できます。毎日計器に乗るだけで歩数や体重が自動記録されて、いろいろなことが見えてきます。サーバーでドクターや栄養士やトレーナーとつなぐこともでき、認知行動療法を使えば、「この3日間がんばっていますね」「昨日より減りましたね」と、タイムリーにほめることができます。それを伝えるために病院に来てもらうのは大変ですが、簡単にアプリでもできます。AIがすべて解析して「今日は〇〇へ行きましょう」「〇〇を食べに行きましょう」と提案するかもしれません。それも可能になってきました。

​ 新しい健康システムとして、1つのデータベースをもとに1つのパッケージになっています。検診データや歩数の結果を、管理栄養士やトレーナー、会社の健康管理をする人も見ることができます。病気の人はかかりつけドクターや専門機関のドクターに診てもらえます。特定保健指導で栄養士が指導している内容をみんなで共有できるのです。

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​ こんなシステムを使ったら本当に減量できるのかと思うかもしれませんが、①ITを使って自動で記録するだけの人②機器からメールなどフィードバックされる人③保険指導のパンフレットだけを渡される人④保険指導のない人の4群に分けて調査してみました。

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​ 6カ月で、皆さん一様に1㎏くらいは減りますが、支援メールをすると2.5㎏~3㎏減ります。在宅でセンサーをつけて記録し、通信機能を付けてフィードバック支援をすると体重が減少するという、最もシンプルな効果が出るということがわかってきました。​この結果から生体センサーの計測も非常に有効だとわかって、いろいろ計画をしているわけです。

4. 健康無関心層へのアプローチ

1-4

1)ウエアラブル

​ 検診で肥満だ糖尿だとわかっても、特定保健指導で反応しなかった人、元気だからと無視する人が、とりあえずセンサーをつけてみると何かと自分の行動がきになって、歩き出す、体重をきにし始めるということはよくある話です。ついチェックしてみて歩数が2,000歩しかないと気づけば歩き始めます。無関心ではいられなくなります。歩数や睡眠状態を数値化すると「私は歩いていない」「寝ていない」も可視化されます。会社では、総務課の平均歩数と営業課の平均歩数が掲示されたりすると競争心も出てきます。そういう意味で大きなメリットがあります。将来的にはビッグデータとして使えるようになってきます。

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​ ウエアラブル生体センサーによるメリットは①無意識の行動や習慣からの気づき・発見→自己の再確認、新しい気づきの湧出②経験値のデータ化・状態の可視化、確認→客観的データから「予防」「自覚」「自助」を支援③自動記録・分析による利便性、省力管理→ユーザーに代わって自動記録・データ管理、などがあげられます。このようなセンサーでも何万円もすればハードルが高くなりますが、我々の使っている機器は4,500円くらいですから、自治体や会社の福利厚生費で用意すれば、保険指導の1つのインセンティブ(人々の行動や意思決定を変化させるような要因)になるのではないでしょうか。

​ 利用者にスマホで登録してもらう⇔フィットネスクラブのトレーナーや栄養士が指導する⇔かかりつけのドクターに診てもらい、ドクターにも情報提供をする、といった双方向アプリによる運動習慣化の試みが、スポーツ庁の助成で令和2年9月から始まっています。

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​ メディカルチェックはかかりつけドクターにしてもらう、あるいは特定検診結果を入れてもらうようにすると、院外のトレーナーや栄養士がかかりつけのドクターと直接コンタクトをとれるので、みんなで患者さんをほめることができ、さらに患者さんをやる気にさせます。しかし、患者さんの耳に入れたくない情報もあるので、患者さん抜きの画面でドクターやスタッフで情報を交換しておいて、患者さん込みのチャットでは「がんばりましょう」のスタンスで連携すれば、さらに効果が出そうなアプリも作りました。

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1)ストレッチ効果

​ 「運動はいらない、身体活動でいい」と言いましたが、歩くのも面倒だと1日オフィスで座っている人もいます。座っていてもできることを、と考えたのがストレッチです。気持ちがいいし、健康に悪くないと思いますが、動脈硬化などに効くかといえば微妙でした。皆さんもストレッチをすればわかりますが、筋肉が伸びます。筋肉の中には血管が走っています。血管が伸びればいいことがあるのでしょうか。

​ 我々の大学の研究で、運動習慣のない中高年の女性対象に、朝晩20分、6カ月間、毎日ストレッチだけをやってもらい、血管の硬さ(血管スティフネス検査)や機能(血管内皮機能検査)の経過をみました。血管の機能は何もしなければ変わらず、3カ月もすると少し良くなり、6カ月では見事によくなりました。ストレッチだけで血管機能は1160から1060㎝/秒まで下がっており、10歳くらい若返ったことになります。ただし、イベントが終わって何もしないで6カ月後に測ってみると元に戻っていました。ストレッチをすると血管が若返るという結果は出ました。つまりからだを伸ばすだけで血管が柔らかくなり、動脈硬化を予防できるのです。

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​ 普通、運動をすると、脈拍が上がることで血液や血管が掃除されて柔らかくなるといわれています。しかし、①運動のように脈拍が上がらない②心臓に負担がかからないストレッチで血管が柔らかくなることがわかったのです。

​ 持久系能力アップ(有酸素運動)、筋肉、筋量アップ(レジスタンストレーニング)に加えて、柔軟性アップのストレッチ(スタティック=静的)も立派に動脈硬化予防につながるといわれるようになってきました。どうしても運動をしたくない人、できない人にお勧めできる、血管力アップのためのストレッチ体操アプリを作成中です。

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健康経営

​従業員への健康投資は、活力向上や生産性の向上など組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながるという国民の健康寿命の延伸に関する取り組みの1つ。

5. 生体センサーの今後の応用

​ 今後の応用として、1つは運動の直接効果による動脈硬化予防。身体活動を上げるために使えるようになります。もう一つ中枢効果。脈拍数などで自立神経系がわかるといいます。今、健康経営を実践する企業に注目されているメンタル効果です。

1-5

1)24時間チェック

​ うつ症状で仕事を休まれる人の最初の主訴は「眠れない」や「寝つきが悪い」、「目が覚める」などで、「私はうつです」と訴える人はいません。眠れない状況が続くと危険だということです。我々も悩みや考え事で寝つきが悪くなることがあります。「眠れない」はうつの前兆になり、ひどくなると本当のうつになります。生体センサーでずっと観察できていれば、眠れない状態が続いているのがわかります。「しんどいのでは?」と予防措置がとれます。

​ 産業医関係では、患者さんの復職時のコンディションの確認に使えます。「〇カ月休んで元気になったから働きます。大丈夫です」と言われたら復職OKですね。復職2週間後にやっぱりしんどい人もいるし、そのまま頑張って仕事をする人もいます。その違いはちゃんと眠れているかどうかです。「頑張ります」と言いながらドロップアウトする人は眠れていないわけで、その確認ができます。

​ 家庭で血圧を測る人も増えています。最近の血圧計は自動で記録され、ドクターに報告できるようになりました。今年から高血圧のガイドラインが変っています。

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​ 正常値140/90mmHg以上を高血圧とする定義は変わりませんが、どこまで血圧を下げるかという目標値の設定は健康な人で130/80。140/90から10も下げられています。これはなかなか大変です。そんな健康な人は病院に来てくれません。家庭で測る家庭血圧計が推奨されています。しかも朝一番の数値は125/75とされています。薬を飲んでいる人が目標に達しない場合、薬をそれ以上使う訳にはいかないので、ガイドラインでは140/90の血圧は生活習慣で下げなさいとあります。生活指導で血圧を下げなければなりません。その時に必要なのは身体活動です。「夜間高血圧」や「仮面高血圧」で朝の血圧が高い人は朝一番の血圧を在宅で測るといろいろなことが見えてきます。そういう意味で血圧や睡眠のチェックに生体センサーを使うのはかなり重要になってきます。

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2)デジタルヘルス

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​ 上図はカフェで朝食を食べている光景ですが、イヤホンが耳の動きを記録しています。耳の中は結構動いていて咀嚼するとあごが動き、噛んだ回数がわかります。早食いの習慣がある人に肥満者が多いことはこれまで多くの研究によって報告されています。保健指導でいわれる「よく噛む」ですが、誰か数えてみたのでしょうか。回数や時間を「ゆっくり」と指導されているのではないでしょうか。

​ 食べる時間や早食いも、センサーをつけると自動記録されます。まだ研究段階で市販されていませんが、こういうセンサーも開発されるようになってきました。若い人にも高齢者にも、ダイエットの指導にも使用できます。誰も自分がどれだけ噛んでいるかはわかっていません。回数の数字が出ると一目瞭然なので、給食などで使えば「食育」にも有効です。「よく噛みなさい」と言われても噛んでいる回数を数えている先生はいませんね。将来的には誤飲や誤嚥予防につながる、飲み込む時間やタイミングもわかるようになります。食べることに関しては1~2年で、自分の咀嚼数をスマホでチェックして自動的に健康評価されるようになると思います。

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​ さらに、ウエアラブル生体センサーは認知機能を早めにキャッチするなど、高齢者に身に着けてもらえば管理が行き届きます。認知症の人は寝つきが悪いのですが、認知機能が落ちると夜中に目が覚めたり、突然起き出して徘徊したりします。少し認知機能が落ちてきたら、こういうセンサーをつけておくと状況の変化や薬などの治療効果もわかります。最近の高級志向施設での着用だけでなく、今後、在宅介護でもポピュラーになってくるでしょう。

​ 高齢者が認知症になる一番の原因は「動かない、しゃべらない」ことで、「1日に会う人は3人まで」「しゃべる相手は平均1~2人」「独居の人は1日誰ともしゃべらない」という日常がリスクとして挙げられています。最終的にはコミュニケーションができるロボットやAIなどに活躍してもらうことになるでしょう。

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3)情報銀行

​ いずれにせよ、皆さんの生体センサーによるデータは、やがてビッグデータとなっていろんなことに応用されます。

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​ IoTという言葉で代表されるようなカメラはもちろん、各種センサーから取得された心拍や血圧や体温、歩数、位置、移動経路など大量かつ多様なデータを自動的に分析できるようになっています。その源泉は一人一人に関わるパーソナルデータです。本人が知らないところで勝手に個人情報を使われてしまったり、プライバシーの侵害につながっては困ります。

​ たとえば、60歳代の男性の歩数と血圧と病気の発生率のデータができると、企業は開発に利活用し、その代価を十二分に支払うことができる利益を得ます。個人情報を外したパーソナルデータを提供する代わりに、さまざまなメリットを得られる時代になります。

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​ 経済産業省は情報銀行という仕組みをつくり、その役割は、個人とのデータ活用に関する契約などに基づき、個人に代わって妥当性を判断した上でデータを第三者に提供することにあります。

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​ 及ばずながら、ウエアラブル生体センサーを用いて、日常生活(身体活動、睡眠)での自然な状態で個人の活動を自動的に把握でき、その健康評価情報に基づいて個別に健康関心領域の情報を提供することで、健康意識の高い人にはより的確な健康情報を提供し、健康無関心層に対しても新たな健康需要を創出できるのではないかと考えています。

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情報銀行

​個人情報は第2の石油と呼ばれ、世界的にその利活用が検討されている。膨大なパーソナルデータを抱えるアメリカの主要IT企業GAFA(Google・Amazon.com・Facebook・Apple.inc)や中国企業に対抗する方法の1つとしても注目されている。

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