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生活リズムの計測から健康管理へ
~生体センサーを用いた健康管理法~
ー 目次 -
2. 慢性疾患管理に必要な理論
1)認知の歪み
2)目標設定
3)モニタリング
4)認知行動療法
5)行動医学
1)運動と身体運動
2)多職種チーム医療
1)ウエアラブル
2)ストレッチ効果
5. 生体センサーの今後の応用
1)24時間チェック
2)デジタルヘルス
3)情報銀行
開発中
ー 目次 -
01. 健康経営とは
02. 中小企業における
健康経営の認識
03. 健康経営の生産性への
インパクト
04. 健康経営の顕彰制度
05. 健康関連とメンタル
06. パーソナルアプローチの
問題点
07. 次世代型ヘルスケア
健康経営の概念
08. ウエアラブル生体センサー
によるメリット
09. 次世代型ヘルスケア
システム
1. 「治す」から「予防」へ
1-1
生活習慣病から心臓や脳血管に関わる大病にかかっても、多くは治療によって治すことができます。しかし、術後経過を長期的に見ると寿命は延びていないころがわかります。健康に長生きするためには病気を治すだけではなく、病気にならないようにすることが重要です。
よくご存じのように、動脈硬化など生活習慣病の根源は肥満です。日本では少ないようでもBMI35以上の高度肥満の人(最高220㎏の人も)は増えてきています。ここでの話のメインは肥満ですが、予防医学の最前線では筋肉に関心を寄せています。もちろん体重や腹囲などは重要ですが、その逆ともいえるサルコペニアあるいはフレイルと呼ばれる筋肉が減少する身体機能の低下に注目しています。長生きをするためには筋肉が必要です。最近のデイケア、デイサービスなどの施設ではお茶を飲んだり、お話をしたりする以外に筋肉トレーニングをします。最先端は筋力をいかにつけるかを重要視しています。
そして究極の予防は「元気に若くアンチエイジング」。抗加齢医学にも取り組んでいます。これらを通して受診者(患者さん)により健康になってもらうのが仕事です。薬も多少は扱いますが、肝心なのは運動や食事、禁煙など、患者さん自身の行動です。したがって行動医学を抜きにすると、なかなかいい結果が出ません。医療が薬を出したり手術をして終わりなら、行動医学は必要のないことです。保険指導の減量や禁煙、血糖値などで良い成果をあげるためには、自分で行動を変える行動変容がなければかなえられません。

行動医学
健康と疾病に関する心理社会科学的、行動科学的および医学生物学的知見と技術を集積統合し、病因の解明と疾病の予防、診断、治療およびリハビリテーションに応用していくことを目的とする学際的領域
2. 慢性疾患管理に必要な理論
1-2
特定検診後の保険指導で、BMIやウエスト、肥満について、動脈硬化のリスクになるとか寿命が短くなるとか説明されることがあります。
便利な計算式などを使って「ウエスト85㎝以上はメタボです。ウエスト1㎝で脂肪1㎏に相当するので、3㎝減らすためには21,000キロカロリーをマイナス消費すれば必ず減量できます。3カ月で減らすとすると1日233キロカロリー。運動だけではせいぜい80キロカロリーなので、食事を減らしましょう。お茶碗1杯減らせば150キロカロリーを軽くクリアできるので、2杯食べている人は1杯にすればいいわけです」。「それも難しいならスパンを6カ月にすれば減量半分で済みます。1日40~70キロカロリー減となると、もっと簡単ですね」。「1日たったの200キロカロリーです。簡単ですよね
」。「やれば、3か月後、6カ月後にはこんなにスリムになっています。メタボ解消ですね」。

1)認知の歪み
〇カ月後、経過をみるために連絡を取ります。患者さんは「私、運動していますよ」「フィットネスクラブに通っています」と言います。特に高度肥満の人に「食べていますね」と聞くと、決まって「私、食べていないんです」と言います。食べていなければ痩せるはずですが「水を飲んでも太るんです」、最終的には「太る体質なんです」と言われるとそれ以上の説得はムリで、薬を飲んでもらうだけになります。患者さんが明らかに間違っているのですが、喧嘩を売っているわけではありません。患者さん自身も自分は食べていないと思い込んでいるのです。これは「認知の歪み」で、この思い込みは激しいものです。

なぜ、歪みに至ったかの機序は、指導の「ごはん1杯に、ビールは1本に」「菓子を半分に」などの目標設定が患者さんに合っていないことに始まります。ムリヤリでも何日か試してみると減量はできるのですが、また、元に戻ってしまいます。目標設定を間違うと1~2週間がんばったとしても結局は元に戻ってしまい、「私はやっぱりできない」と思い込んでしまう。これもこの話のキーワード「自己効力感」です。自分はできないと思えばやる気はなくなります。「私はできない」を正当化して「私は太る体質」「水を飲んでも太る」という認知の歪みなっています。「こんなことはできない」と思い込んでいても、やってみれば案外簡単にできたりすることがあります。実際はやればどんな人でもやせるのですから、「私にはムリ、できない」と思い込んでいる認知の歪みを外す必要があります。肥満外来で減量に成功した患者さんに聞いてみると、初めは「運動をしてるのに」「太る体質だ」と言っていたのが、「あの頃は食べていました」と自分を理解できるように変わっています。
思い込みを外す方法は
①考え方のくせに気づく(セルフモニタリング)
②新しい思考の探求(新しい考え方について共に検討する)
③日常生活におけるセルフモニタリング(新しい考えのメリットを考える)
④自己効力感の向上(できることを実感する)
などのステップで認知の修正ができます。体重や歩数を記録するモニタリングで自分を客観視でき、いろいろなことに気づき、最終的にできると思う自己効力感でやる気になります。
自己効力感(セルフエフィカラー)
自分が課題を克服したり、実行できるという期待や自信のことで、人が行動するかしないかを決定するための重要な要因の一つ。
2 )目標設定
行動医学的に一番大事なのは目標設定です。お正月に「今年は日記をつけよう」と書き始めても、大抵3日で終わっています。夏休みの宿題の計画も「7月中に宿題を終え、8月中はすべて遊べる」はずが、気が付けば8月31日も宿題をしていますね。計画を立てるときはテンションが上がっているので目標を高く設定しがちですが、ムリな目標を立てると失敗します。減量も同じです。

上の図の円は減量効果の大きさを表しています。「ごはんを1杯にして減量できるなら」と患者さんを説得して、やる気十分に始まりますが、3日くらいで「私やっぱりごはん好きやし」「減らしたくないわ」という人も少なくありません。「ビールを減らしましょう」という正論を述べる栄養士にもノウとは言えません。このままなお、続けるように言っても結局は三日坊主で終わります。本人は「やっぱり私はできない」そのうちに「私は食べていない」と思い始めます。理論的に考えて、我々は減量効果の大きい「ごはん1杯」をチョイスしたいところですが、本人は変えたくない、できないと思っていることだから、この目標では最初から続かないわけです。結果として減量には成功しません。
ごはんもビールもムリ、フィットネスクラブもムリなら、「昼休みの散歩はどうですか」と勧めます。10分くらいの散歩で大きな減量は望めませんが、こういう目標でも1カ月続けることができれば多少なりとも減量効果は出ます。
効果があれば達成感が上がります。ほめることが一つでもあれば我々も嬉しく、患者さんもほめられてやる気を出します。1つできればいろんなことがやりたくなります。患者さん自ら「ごはんを半分にしようかな」と言い始めます。1カ月の時間を余分にかけても、患者本人がやりたくなるまで待つだけで、減量効果は大きく変わってくることがあります。
初めから一番いい効果を出そうと我々があせると失敗します。責任はむしろ指導者側にあります。我々があせってしまうために、患者さんは三日坊主に終わってしまって、「自分はできない」と自己効力感を下げて「認知の歪み」をつくってしまいます。これを理解して特定保健指導をしなければなりません。正攻法で対処すると、お互いに気まずい思いをすることになります。

3)モニタリング
目標設定はこれで決まりました。が、ずっと続けていく必要があります。そこで行動医学第2弾がモニタリング(記録)です。

目標を決めても続かなければ意味がなく、ほめるにしても記録がなければできません。本人に歩数や体重などの記録をしてもらえれば、いろんなことが見えてくるのですが、ここにもポイントがあります。
たとえば、歩数は1日8,000歩、ごはんは半分にするとかの目標を決めて2週間後、記録を見ると3日分しかないとか、8,000歩と決めたのに6,000歩しか歩いていない場合、「3日しかできていない」「6,000歩しか歩いていないね」と言いたくなります。つい、できていないところを指摘したくなりますが、これが大きな問題です。
できていないことを言われたら誰でも自己効力感が下がります。「3日しか」を「3日も」と言い換えれば「3日でもイケてるのかな、次は4日にしようかな」と思ってくれます。「3日しかできなかった」と「3日もできた」は患者さんにとって全く異なる捉え方になります。
いかにポジティブにフィードバック支援をするか。使い方によってモニタリングは成功します。逆に患者さんの思いを水の泡にすることもできます。そこは我々が十分に気をつけなければならないところで、よく理解しておけば不要な言葉は出てきません。

実はモニタリングは古典的な手法で、20年以上前にNHKのテレビ番組『ためしてガッテン』で試みたものですが、肥満の人に①体重計をお持ち帰りの人と、②レシピの本のみをお持ち帰り人、の2郡に分かれてモニタリングの効果を検証してみました。当時、家庭用の体重計は珍しい時代だったので、体重計を持ち帰った人は毎日体重を量ります。毎日量っていると、体重の増減について何かが見えてきます。番組で「量るだけでダイエット」ができることが科学的に証明されたのです。
また、自分では食べていないと豪語していた、体重150㎏の作家が、あるとき、ご自分で食べたものをすべて記録してみたところ、ラーメンライスとかチャーハンとか炭水化物ばかりでした。さすがに食べ過ぎだと自覚して炭水化物を止め、1年くらいで正常体重に戻りました。ただ単に記録しただけでやせたことから「レコーディングダイエット」と名づけて商標登録されています。岡田斗司夫著書「いつまでもデブと思うなよ」で紹介されているダイエット法ですが、自分で記録するのは結構効果的です。
行動医学的には、できそうだと思える減量しかやらせないことが大事で、やればほめてあげる、ただし減量の効果にはこだわらない。減っても減らなくても問題ありません。行動が続けば必ず減量はできますから、後から目標は徐々に上がっていきます。こういうことを意識して指導すると、意外に患者さんは乗ってくることがあります。

4)認知行動療法
心理学的には「行動療法」といいますが、自分でやれそうなこと、やりたいことを目標にやってもらうことは非常に大事です。この手法は30年ほど前からの定番です。
しかし、達成感がなければ人は続かないだろうし、逆に目標は適当でも自己効力感が大事。認知を変えた方がいいのではないか、自分でできると思えば勉強でも何でもやるだろうということで、「認知療法」が出てきました。1980年くらいです。認知を変えるような「あなたはできる」「すごいね」とほめるのは確かに効力はありましたが、目標設定を忘れると何をやっていいのかわからないだとうということで、2000年くらいからは両方を合わせた「認知行動療法」が主流になっています。
